2010年 09月 25日 ( 1 )   

天地明察   

冲方丁の『天地明察』を読む。
言わずと知れた、今年の本屋大賞受賞作です。
本好きのオトモダチから回覧本として回ってきました。
多謝!
私も本好きの同僚に回します。

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冲方丁さんは初めて読みました。
この見た目の変わった名前はSF界の人という印象しかなかったので、時代小説で本屋大賞、と聞いたときは、似た字面の別人かと思いました。
だいたい、どこまで名字なの?みたいな。
もちろん「冲」は「沖」だと思ってましたし・・・これはつい最近までずっと、ですが。

腰巻の言葉によれば「日本天文学の開祖渋川春海の20年にわたる奮闘・挫折・喜び、そして恋-」の物語です。

力作です。
徳川4代将軍家綱~の時代に実際に在った史実を人物を、著者が真摯に自分の目と頭と心で検証し、全身全霊で咀嚼し、ピカピカな時代小説に仕上げました、という感じ。

時代小説と歴史小説は、史実に即した物語か否かで、実はジャンル的にはかなり明確な線引きをされていますが、混同していたり、その違いに無頓着な人は存外に多く、一般的にはもちろん、私のような本の交通整理係の仕事をしている人間でも、解釈が曖昧な人が多いです。
でも、この『天地明察』を読むと、つくづく、それもしかたないなあと思います。

時代小説と歴史小説を分けて考えるには無理がある。
そもそもどっちも「小説」ですからね。
両者の違いを考え出したら、たとえば、家康にしろ秀吉にしろ龍馬にしろ、今まで「歴史小説」として書かれた物語の彼らが「実際どこまで本当の彼らの姿なのか」という「本当」の解釈の話にまでなってしまうと思う。

史実としてまぎれもなく在るものは在る。
ただ、そこに至る状況や過程には、関わった人々それぞれの思惑や時代の流れや空気もある。
それらを掘り下げ、今の時代に伝えるには、書き手の心の向きや想像力が肝要で、それに委ねるしかありません。

見る角度、慮る尺度で、同じ出来事も全く違うものになるのは、なにも歴史に限ったことだけじゃなく、日々、リアルタイムの自分の生活でも実感させられることです。
ノンフィクションと銘打った読み物や映画も、それがライターや監督のフィルターを介した時点で「事実を基にしたフィクション」になるのはある意味、自明の理だし、史実や歴史上の人物をどう掬い取ってどう解釈してどう表現するかもそれと基本的には同じだと思います。

それらを考えると、歴史小説と時代小説のライン引きなど無意味な気がどんどんしてくるのです。
というより、むしろ、厳密に両者を分けられない部分にこそ、このジャンルの醍醐味や将来性がある気がします。
今回の『天地明察』や飯嶋和一さんの一連の小説を読むと、本当にそう思う。
時代&歴史小説は面白いなあ、作家にとってわくわくする鉱脈なんじゃないかなあ、と。

本の感想。
そういうわくわく感が伝わってくる小説でした。
だいたい、算術や天文学って、一般人にはロマンを掻き立てやすい題材ですよね。
理解し切れないけれどなんとなくわかる部分もあり、無限の広がりがあって、大いなる存在がどこかにいそう。
そこに、一途で清廉な主人公を置き、周囲も魅力的な人物達で固め、軽快な文体で、随所に先に含みを持たせるちょっと思わせぶりな文章を挿入すれば、盤石な布石(?)この上なし!というものです。

でも、そのあまりに「ぴたっと全てのピースがあるべき場所にある」感じが私にはちょっと物足りなかったです。
それはきっと、私が飯嶋和一好きで、特に『始祖鳥記』や『黄金旅風』を偏愛する人間だからだと思います。

『天地明察』の主人公、渋川春海の心のありようが後半、あまりリアルに伝わってこなかったんですよね。
前半の、老中酒井にうっかり「退屈です」と言ってしまうあたりまではすっごく良かったのですが、使命を帯び、感情の振幅が大きくなってからは、喜怒哀楽以外の微妙な感情や転機になる場面は「からん、ころん。」で済まされてしまったというか。
いや、きっとそれで充分なんだと思います。
その幻の音で読者は春海のいろんな感情を受け止めるわけでしょう。
私が飯嶋小説の過剰さや武骨さや偏屈さという洗礼を受け、「時代小説」のひとつの尺度にしてしまっているだけだと思います。

ただ、あまりに題材や咀嚼力が素晴らしかったので、私にはその物足りなさが目立っちゃった気がしました。

この小説も過去の本屋大賞受賞作の例にもれず、映像化されるのでしょうか。
渋川春海役はいかにも堺雅人や大森南朋あたりがやりそう。
ちょっと年齢を下げたら、妻夫木聡か瑛太?
われながら月並みなキャスティング。
いっそ、関孝和は今野クンとか。
映画『ちょんまげぷりん』の今野クンが絶賛されてるみたいなので。
勢いに乗じてなんでもかんでもかい!?
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by kuni19530806 | 2010-09-25 23:58 | 読書