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昨夜のカレー、明日のパン   

木皿泉さんの『昨夜のカレー、明日のパン』を読む。

ドラマ「すいか」の重度フリークの私としては、その脚本を書いた木皿泉さんの初小説ということで、期待して読みました。
うん、期待どおりだった。

若くして夫である一樹を亡くしたテツコは、一樹の父親のギフ(義父)と一樹亡き後も一緒に暮らします。
この本は、このふたりを軸に、ふたりの住む家の隣人タカラや、一樹の従兄弟虎尾、テツコの恋人岩井、ギフの亡き妻夕子などの姿が描かれます。
まあ、こぞってちょっと風変わりな人物達の連作短編集です。

木皿さんの描く世界は、根底のテーマやその都度その都度の気持ちのリアリティに重きを置く分、シチュエーションや展開はわりと行き当たりばったりというか、整合性がとれていなかったりします。
細部の設定があいまいだったり、伏線的なことが最後まで回収されずに終わったり。
でも、誤解を恐れずに言うと、そのいいかげんさが好きなんだよねえ、私。

その世界に触れると、きっちりしたがんじがらめな正しさがないがしろにされている(?)分、一般常識とか固定観念から開放される気がします。
無自覚に「普通」という道を自動運転で走行しがちな自分に、「今はそれより大事な用件があるんじゃない?」とか、「もっと違う道のことを考えてみた?」と問いかけられているような、でも同時にいろんなことを赦されているような、安堵感を覚えます。

木皿さんのテーマはいつも「人は変わる」「人は変われる」です。
そして「変わる」ことの中には死が含まれます。
それも色濃く、日常的に。
生きることから見える死、死から見える生、それがことさら並列で垣根なく、愛おしく描かれます。

モテ男子だった一樹が結婚相手としてテツコを選び、それを意外に思った虎尾。
「もっと選べるはずなのに」と言う虎尾に対する一樹のセリフがまさに木皿ワールド。
「こーゆーのは選ぶもんじゃないんだ」
(中略)
「まぁな、オレの人生、まだまだ続くわけだし、なるたけ、気持ちよく生きてゆきたいし。お前にはわかんないかもしれないけれど、欲しいとか、似合うとか、人生には、それ以上のものがあるんだって」

昨夜のカレー、明日のパン_a0099446_2115713.jpg

by kuni19530806 | 2013-10-16 21:59 | 読書

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