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家の写真   

父親のマンションに行く。

入院していた病院へ証明書を取りに行った帰りに寄ったのだが、主な用件は「ずいぶん前にもらっていた合鍵が本当にこのマンションのものなのか」を確認するため。(なんだそれ?)
確かにマンションのものだったが、合鍵は使っていないと抜きづらいものらしい、ということがわかった。

父親の祭壇と長兄の仏壇にお線香を上げたので、それが終わるまでベランダでぼんやりしたり、父親のアルバムを見たりしていた。
父親と全く音信不通だった期間の写真は見事なまでになかった。
処分したのか?と思ったけれど、きっと違う。
写真を撮ることがなかったのだ。
旅行にも行かず、人付き合いも一部の女性としかせず。
職場で写真を撮られることはあったのかもしれないが、それを積極的に欲しがったりはしなかったのだろう。
遺影は、入所していた老人ホームの誕生会で撮ってもらった写真を使ったが、これがなかったら、下手すれば40年前ぐらいの写真を使用するしかなかった。

なので、アルバムは、まだかろうじて「家族」が存在していた頃のものばかりだった。
特に目立ったのは、私が10才~15才まで住んでいた家の写真。
アルバムにやたらペタペタ貼ってあった。
その前に住んでいた家も父親が建てたものだったが、二度目のそれは、父親にとっては一世一代の家、という認識だったのだろう。
それが写真の数に表れている、と今回思った。
そして
写真を見てあらためて思ったが、成金趣味みたいな家だった。

福島市の北東部の、当時はちょっと辺鄙な場所だった。
今は仮設住宅が数多く建てられている地区だ。

当時、近くにはバスも通っていなかった。
いわゆる新興住宅地の初期の段階だった場所で、新しい家がポツリポツリと点在していて、ほとんど田んぼと宅地建設予定の造成地だった。
田んぼのど真ん中に昔ながらの農家の家が寂しそうにあるだけの。

当時はまだなかった、夢の東北新幹線と東北自動車道が近くを通るかもしれない、という噂もあった。

そこに父親が建てた家は、二階建てで、二階は息子二人のそれぞれの部屋とトイレがあり、一階は、応接間と茶の間とキッチンと父母の部屋と娘の部屋。
6DK。
庭は広く、全体に芝生が敷き詰められ、中央にはひょうたん型の池があり、錦鯉が泳いでいた。
何匹も。
庭の一角は物置と駐車場とちょっとした花壇。
南側はりんご畑、その先は栗林、そのもっと先は松川という川だった。

トイレは、当時には珍しい水洗。
自家浄水装置付きだったのだと思う。
応接間にはレザーの応接セットとステレオと、まdあ一般家庭には珍しかったクーラーがあった。
私と母は、応接間というより、クーラー室と呼んでいたような気がする。
そして娘の部屋にはピアノ。
母親が、寝起きの悪い二階の息子たちを朝起こすために何度も階段を上り下りしなくて済むように、キッチンでベルを押すと二階の廊下にピンポン!が響き渡るシステムも装着されていた。
私はそんな家に、小学校4年生から中学3年まで住んでいた。

小学校も中学校も遠かった。
特に中学は自転車で30分近くかかって、吾妻おろしという強風の土地柄だったその地で、朝はほぼ向かい風、しかもちょっと上り坂、を通学する日々だった。
最初の頃はその道のりがキツくて、毎朝半泣きしながら通っていた。
1時間目の授業のときは、まだ息が荒いままだったような記憶がある。
それでも、自分の個室と、広い庭のある家はうれしかった。
そして、後半の3年間、父親はほとんどその家に帰って来なかった。

そんな家の写真を、アルバムにたくさん貼っていた父親。
年老いてからも、折に触れ、開いてそれを眺めることがあったのだろうか。

エリート銀行員を「自分は人に使われる人間じゃない」と宣言して辞めて、脱サラし、まだ自分は前途洋々だと思っていた頃に建てた家の写真を見たりしたのだろうか。
事業に失敗し、一家離散し、一時行方不明になっていたせいで負債を長男に背負わせることになり、まるでそれを計算していたかのように、ほとぼりが冷めた頃に、何食わぬ顔で大手リース会社の経理課長としてサラリーマンに復帰した姿で長男に連絡し、泣いて謝って長男に一緒に暮らすことを同意させ、その長男を亡くし、次男に手を焼き、長女にすがった・・そんな自分をどんな風に思っていたのだろう。

いろいろあったがいい人生だった、と思ってたのではないだろうか。
そんな気がする。
いや、間違いなくそうだ。

浦和の空は高かった。
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そして、岩本町のアカシヤ(明石屋)は健在でした(*´▽`*)
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by kuni19530806 | 2013-10-03 23:52 | その他

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