壷中の回廊   

松井今朝子『壷中の回廊』を読む。

今朝子さんは、遊郭や歌舞伎などの伝統芸能に造詣が深く、それをモチーフにした時代小説を数多く書いていますが、今回は昭和初期、あの関東大震災からようやく復興してきた昭和5年の東京は木挽座(歌舞伎座がモデル)が、いろんな意味での舞台です。

今回は正面切ってのミステリー。
木挽座の立女形、俳優倶楽部の会長でもある六代目荻野沢之丞の愛弟子、荻野寛右衛門が、舞台中に毒殺されます。
以降、殺人事件が続きます。
それを、大学講師で狂言作家の末裔である桜木治郎が図らずも素人探偵の役割を担わされ、事件の核心に迫っていかされることになるわけですが、世の中が急速に右傾化し、特高の「アカ」弾圧が激しさを増す不穏な時代設定が、事件の不穏さと相乗効果になって、その不気味さたるや、さすがー!な世界です。

ただ、ミステリー的には物足りないっちゃあ物足りなかった。
肝というか、事件の核心にいるある人物の登場が少ない、というちょっとした不満も。

でも、それを補って余りあるのが、真相が判明した後の最後の10ページ。
ここが私にはメチャクチャ素晴らしいと思えました。

真相が判明→解決→スッキリ、ではおよそないけれど、それでも人は過去や未来を背負った現在を生きて行かなくてはならない、そのやりきれなさというか、たくましさというか、物悲しさが集約された、秀逸なラストだったと思います。
堪能。
a0099446_11235522.jpg

[PR]

by kuni19530806 | 2013-09-02 22:22 | 読書

<< ドラマあれこれ キャッチャー・イン・ザ・ライブラリー >>