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マロのいない冬   

マロのいない冬が来る。
14年間一緒に暮らした雑種マロが死んだのは去年の大晦日の夕方だった。
なので、年明けからこっちはマロのいない冬を既に過ごしてきたわけだが、11月もなかばになり、先週から火曜日の夕方に「雪やこんこん」の音楽を鳴らした灯油販売の車が回ってくるようになり、あらためて思う。
マロのいない冬が来るのだ、と。

マロは玄関先に灯油のおじさんが来ると決まって吠えた。
でもそれは威嚇ではなく臆病ゆえだった。
おじさんが優しいこともマロは知っていた。
その証拠に、最初は尻尾も振り気味におじさんを迎えるのだが、おじさんがマロのテリトリーの中に入ってくると、我慢できずに「わん!」と吠え、その後は後ずさりしながら吠え続けるパターンを繰り返した。
家族が「ほら!吠えないの!」と叱ると、「わかってるんだけどさー」と言わんばかりに上目遣いでこちらを見上げ、でもたまらず「わん!」と言った。
それがほぼ毎週火曜日、繰り返された。
今年になって、最初に灯油販売が来たとき、おじさんは明るく「あれっ?今日はわんちゃんが珍しく静かだねー」と言った。
いつもおじさんとよく話をしていた夫の母が困った顔をして口ごもったので、私が代わりに「死んじゃったんですよ」と言った。
マロが死んでしまったとき、いちばん気丈な立ち振るまいをしていたのが母だったので、母が口ごもったことに私は一瞬動揺した。
ささいなことなのだけれど、かなり動揺した。

マロのいない1月2月を過ごし、冬が終わり、花粉が飛び、桜が咲き、ぬくぬくした本格的な春になり、梅雨をやり過ごし、酷暑にうんざりし、ああ秋だーと空を見上げ、自分が失業することが決まり、ああそろそろ冬が近いなあ、というところまで来た。
もうすぐマロのいない冬だ。

もうマロのいない日々を三百日以上やっているのに、今また新鮮な不在感が募る。
お腹の下で足を温めてもらうことも、悲しいことや腹立たしいことがあったときに愚痴を聞いてもらうことも、なにより「雪やこんこん」のメロディとセットのようなマロの「わん!」を聞くことも、もう叶わないのだなあ。

私、3月で仕事辞めちゃうことにしたんだよ。
ねー、聞いてる?!
マロのいない冬_a0099446_1851684.jpg

by kuni19530806 | 2012-11-13 18:05 | その他

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