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タイ   

ほぼ季節ごとに開催されている前の会社の職場呑み会。
職場自体は統合?廃合?だかよくわからないけれどもうなくて、みんな全国各地はもとより、海外まで網羅した範囲でちりぢりになっている。
なのに、というか、だからこそというか、同窓会的なものがいまだ存続していて、6年も前に退職している私のような人間(しかも非正社員)まで誘ってくれる。
ありがたい。
苦痛な職場だったらもちろんそんな風に思わないが、けっこう楽しかった。
給料は安かったし、年度末の忙しさはハンパじゃなかったし、愚痴もいっぱいこぼしつつ働いていたけれど、ネガティブな感情は基本、長くても数日単位で忘れてた。
なにより、自分の「ちょい毒を含んだネーミングセンス」が培われ発揮できるくらいは働きやすかったのだ。

2011年は、2月に冬の同窓会があって、春は震災関係で開催されず、夏はめずらしくイタリアンバイキングだった。
そして秋。
今週の予定だったので楽しみにしていたが、急遽中止決定。
実はある程度、予測していたけどね。
理由はタイの洪水だ。

在職中、自分の部署のシマに、全く異業種の部署が1年ほど間借りしていたことがある。
前の会社は規模がデカく、部署が違うとまるで別会社で、あいさつぐらいはするものの背中合わせの人の名前を知らない、なんてことはあたりまえの範疇だった。
2千人規模が働く本社だったせいもあるけれど、デカい社食もいっぺんには入れず、フロアごとの交代制で昼休みをとっていたし、何十人も乗れるエレベーターが10台ぐらいあった。
私はいろんな会社を経験しているけれど、その中でもイチバン規模がデカかったと思う。
4年半、デカい会社ならではの、面白かったり珍妙な経験もいろいろさせてもらいました。

そうそう、シマの話。
異業種の間借りは、もともといた私達の部署で席替えをしてその部署を受け入れる形だった。
私は隣の席に移り、そこには間借りしてきた部署のUさんという若い男子が座った。
お隣さんになるので、私はちゃんと「はじめまして。マツモトと申します、よろしくお願いします」と名乗った。
Uさんはモジモジした男子に見えた。
下を向いてもごもごと「こちらこそ」らしき単語をつぶやき、全くこっちを見ようとしない。
ま、いいけどさ、私はオバサンだし(しかし今よりは10才ぐらい若かった)、でも最近の若い子はあいさつもちゃんとできないのかよ、とそのとき思った。

なのに、最初はそんな感じだったのに、Uさんはそれから数時間経つと、何度かちらちらとこっちを窺うそぶりを見せた。
しかし、何も言わない。
気になったが、気のせいかもしれないのでこっちも様子見。
でもやっぱり何か言いたげ。
そのうち、Uさんの反対側の隣に座る社員が私を見ながら笑いつつ言った。
「U、だから言えばいいじゃん」
な、なんだ?
早々に告白かあ?

「あの~、これ」
Uさんが観念したように自分の机のサイドにある引き出しの一番下をおもいっきり開ける。
手前はカラだが、奥半分にはぎっしり書類やカタログが詰まってた。
全部、私のだ。
席替えのときに出し忘れたのだ。
半分だけ開けて、出して、それでキレイにしたと思ったのよ。
急いでたしさ。

あ、ご、ごめんなさい!
と、反射的に殊勝に(!)謝ったが、周囲が口々にUさんのモジモジぶりを茶化すので、私もつい口車に乗って「そうですよ。んなこと、とっとと言って下さいよ。言い淀まれるとむしろこっちが悪いみたいじゃん!」と意味不明のコメントをしてしまった。
むしろこっちが悪いって、最初から私の不注意なのに。
Uさんは一瞬ものすごくビックリした顔をして私を見たが、私のコメントで私に対する自分のスタンスを決めたらしく、「なんで僕がマツモトさんに怒られきゃならないんですかっ!」と笑ってそこでそれまでのモジモジっぷりを全面的に終了させた。
その後、Uさんと私は他の人達に「仲いいね」と羨ましがられるくらい、よくしゃべるようになった。

Uさんはタイ語がぺらぺらだった。
なんでしゃべれるのかと聞いたら「必要に迫られて」という答えだった。
その「必要」は、当初はもちろん仕事で長期滞在させられてという意味だったろうが、彼は向こうでタイ人の恋人ができたのだ。
Uさんは小柄で童顔で、当時は見るからに若僧だったが、彼も今は30代なかばのはず。

彼は今、タイに行っているか、行ってなくても今回の洪水のことで奔走してるね、間違いなく。
タイ人の彼女とは結婚したのだろうか。
名前も教えてもらい、デートの話も聞いたりしたっけ。
名前、忘れちゃったけど。
Uさんに教えてもらったタイ語もなにひとつ覚えていない。
生きることは忘却することだわ。

by kuni19530806 | 2011-10-31 23:51 | その他

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