2010年 10月 15日 ( 1 )   

星と輝き花と咲き   

松井今朝子の『星と輝き花と咲き』を読む。

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古典芸能と江戸風俗に造詣が深いことで有名な著者ですが、今回の舞台は明治、そして扱う芸能は女義太夫です。

女義太夫はもちろん、義太夫そのものについても私は全く知識がなく、正直言って、これを読んだ現在も、浄瑠璃との括りの違いがよくわかりません。
詩吟との違いもわからないかも。
三味線をバックに、物語を歌うように語る、でいいんですかね。

この小説のヒロインは、そんな女義太夫(女義)の第一人者として明治後期に絶大な人気を誇った竹本綾之助という実在の人物です。
この本では彼女の幼少~結婚引退までが綴られているのですが、とにかく物凄い人気だったんですね、この人。
本書の最後に画像も載っていますが、確かにきりっと涼しげな目をした美少女です。

本人は、持って生まれた自分の義太夫の才能を表現したいという本能(?)に突き動かされた単なる天才少女(?)でしかなかったのに、その実力と容姿と周りの野望がその無垢な願望を無垢なレベルのままじゃ許さず、どんどん時代の寵児に祭り上げられて行くことになります。

それは必ずしも幸せなことではないのは自明の理。
私生活のない多忙な生活を強いられるようになり、女義太夫ブームの牽引役になり、彼女らには、今で言うおっかけのような学生達が群がり、「堂摺連(どうする連)」と呼ばれ、彼らの出待ちや追っかけ行為で、綾之助は身の危険に曝されたりする。
そして、あらぬゴシップもたびたびでっち上げられる。
忙し過ぎて、心を通わせたいと思う同業者とも友達にもなれず、不本意な形で別れることになる。

継母のお勝と、早々に彼女の才能に目をつけたマネージャーのような存在の近久という男が綾之助をしっかりガードし、彼女は内面の葛藤とは裏腹に、カゴの鳥よろしく、ひたすら華やかな舞台に立つ日々を過ごしますが、そんな彼女も恋をします。

正直、この本の綾之助自身にも彼女の恋人にもさほど魅力を感じませんでした。
綾之助の才能は凄かったのだろうなとは思いますが、彼女の喜びや苦悩はとおりいっぺんの描かれ方しかされていない感じで、彼女の放つコメントの背景や、心の機微の掘り下げ方が物足りない。
それは恋愛に関しても同様で、作者の意図する距離感なのかもしれませんが、なんだか伝記を読んでるみたいでした。

ただ、まるでヒロインの人間味を補うように、お勝と近久はやたら魅力的。
どちらも、ステレオタイプなようでそうでない、言動と心理がカンタンに合致しない、多面的な生々しい存在です。
特に近久は、多く触れられていない分、むしろ、こっちの興味をそそるというか、いったい何を考え、どう思いながら綾之助のプロデュースをしてきたのだろうか、と、終盤の彼の心情の吐露を読んでも、「明察!」という気持ちにはなれず、そりゃあ人間、狡猾さと純粋さが共存して生きてるもんだよねえとあらためて思い至ったりして、そこが面白かったです。

この本を読んで、美空ひばりや山口百恵を脳裏に浮かべる人が多いのではないかなあ。
ぴったり寄り添う母や、結婚での潔い引退(綾之助はその後、カムバックするようですが、この本は結婚引退までです)は、昭和のふたりを彷彿させます。
タイトルはまさに「スター☆」だし、明治期にもこんなポジションのアイドル(?)がいたんですねえ。
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by kuni19530806 | 2010-10-15 23:19 | 読書 | Trackback | Comments(0)