出星前夜   

飯嶋和一著『出星前夜』を読む。

ついに読みました
やっとのことで読みました
すんなり読みました
早く読み終わりたいと思いました
いつまでも読み終わりたくないと思いました

飯嶋作品はどれも、これらの相反する気持ちが共存します。
今回もそうでした。

島原の乱の話です。
でも天草(ジェロニモ)四郎は、美輪明宏がムッとしそうなくらいの脇役です。

主立った登場人物は4人います。
医者の外崎恵舟。
長崎代官の末次平左衛門。
島原半島有家村鬼塚の庄家、鬼塚監物。
有家の蜂起のきっかけを作った若者、寿安。

そのどれもが飯嶋作品の主人公たる資質充分で、その証拠の一端として(?)、末次平左衛門は前作『黄金旅風』の主人公でもあります。
今回はまんべんなく4人に視点が分散した分(中では平左衛門はちょっと控え目)、魅力的な人間描写でぐいぐい押してくる迫力はちょっと物足りなかったかもしれない。
でも、それは比較が今までの飯嶋作品と、だからであって、そんじょそこらの安い小説とは比べものになりません。
ちなみに、私は「そんじょそこらの安い小説」にも好きなものはいっぱいあります。
ですから、そういう小説を揶揄する気持ちはありません。
ただ、飯嶋和一さんの小説はジャンルが違う、と思うだけです。
レベルではなく、ジャンル。

今回の主人公は島原の乱そのもの、でしょう。
民と幕府双方の思惑がきめ細やかに描かれ、キリシタンについても深く掘り下げられ、合戦の描写は質・量ともお腹いっぱい‥以上のずっしり・みっちり感ですが、私は今回、なにがイチバン「すげえ」と思ったかというと、実は、外崎恵舟方面。
診立て描写や、処方する漢方薬に対する造詣の深さ(?)です。
無駄に詳しい。
たぶん、きっと、いや、間違いなく、全て合ってると思います。

あ、話が逸れました。
今回の主人公は島原の乱そのものって話でした。
そこに至る過程は揺るぎない説得力があり、読む側に迫ってきます。
中でも、ぐっときたのは
<人に決定的な打撃をもたらすものは、苦痛の連続ではない。一瞬の希望をかいま見せられ、そして打ちのめされることである。>
でした。
この文章だけで、飢饉と尋常ではない年貢の取り立てに苦しんで、一度はお上からの拝借米放出を約束させた民が、その約束を反故にされて、怒りより茫然とし、それまでぎりぎり保ってきた気持ちの一線を超えてしまうリアリティを感じました。
それまでは歴史の教科書の1単語でしかなった“島原の乱”に、この小説で近寄って、ついに自分も気持ちで参戦してしまったような一瞬の一線。

今回も人がたくさん死にます。
滅法、死にます。
しかもその経緯は負のスパイラルと化し(合戦、戦争の類は総てそうと言えるかも)、蜂起側も討伐軍も、ただただ無駄に失われていくのみで、描写が克明で生々しい分、読み手は虚しさを感じます。
『神無き月十番目の夜』ほどの血なまぐささはないものの。

でも今回は、恵舟と寿安を、人の命を命を賭けて救う側に立たせたことで、今までの作品にない爽やかな、救いのある読後感になっています。
蜂起のきっかけをつくり、自らも人を殺めた寿案が、病人を救おうとすることで自分の存在価値を再構築していたのが、蜂起側皆伐を聞いて、ある決意をし、しかしその決意は‥のラスト近いシーンは、素晴らしいです。
本当に救いです。

この小説、借りずにちゃんと買いましたよ‥って、誰に言ってるんだか。

「凄いと思う作家を一人挙げろ?と言われたら飯嶋和一」と思い続けて10年になります。
だからこそ、今から8年前の2000年、飯嶋さんの初期の作品である『汝ふたたび故郷に帰れず』のリニューアル版が小学館から発売された際(もともとは1988年、河出書房から発売された)、自分が「本の雑誌」に書いた文章がその広告に使われたのは私の数少ない、心からの自慢です。
本当に自慢みたいです、私。

自分の駄文が出版の広告に使われたことが自慢なのではなく、それが飯嶋和一さんのだから自慢なんだけど、わかってもらえるかしらん。
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by kuni19530806 | 2008-09-07 23:18 | 読書

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