お父さんと伊藤さん   

中澤日菜子著『お父さんと伊藤さん』を読む。

全く知らない作家でした・・と思いきや、小説家としてはこれがデビュー作らしい。
この作品で、小説現代長編新人賞を受賞とのこと。
それまでは脚本家だった模様。

面白い小説でした。
推薦してくれたIさん、感謝。

ヒロイン彩は、34才のアルバイト書店員。
コンビニのアルバイトで知り合って、その後、給食のおじさんに転職した54才の伊藤さんと一緒に暮らしている。
その二人の家に、74才の元小学校教師の彩の父親がやって来る。
父親は彩の兄一家と同居していたものの、上手く行かず、嫁である理々子が精神的に不安定になってしまったという。

父親は、持病があるものの、厳格で頑固。
父親に苦手意識を持つ彩は当然、同居を歓迎せず、父親の方も、想定外の伊藤さんの存在と、伊藤さんの年齢、不安定な雇われ仕事、離婚歴を快く思わない。
そんな3人の同居がすんなり行くはずもなく・・・の物語です。

ものすごい波乱万丈な話でも、ぐりぐりと抉るような内面描写があるわけでもないのに、読み終わったら、なんだかとても人間の深いところに触れたような感触が残りました。
顔を突き合わせるとリアルな話題を避けようとする・・的なリアルな家族の描写や、ちょっとオープンエンド的なラストや、謎めいて本当は洞察力がありそうなでももしかしたら本当にあまり考えていないだけかもしれない伊藤さんの魅力、などなど、好みでした。
後半からちょっと伊藤さんがかっこ良すぎじゃね?と思ってしまいましたが。

人間って、長く生きれば生きるほど、必死になればなるほど、せつない。
過去が積み重なって現在(いま)があり、未来もその延長なのだろうけれど、現在から見える過去は、現在が動いている分、同じではなく、それは当然、未来に対しても言えることで、だからこそ、動かない気持ちや思い出や人にすがってみたくなるけれど、気持ちや思い出や人も動かないわけはなく、そんな揺らぐ世界で時間を重ねて行くことは、本当にせつなくて、でもそれだけに、生き続けるその事実に意義があるような、そんな心持ちになりました。

ちょっとよけいなエピソードや、腑に落ちない部分もありましたが、人の暮らしって、よけいなエピソードや腑に落ちないことがいっぱいなわけで、それさえも必然だと思えた。

この小説、好きだ。
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by kuni19530806 | 2014-04-26 21:14 | 読書

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