漂砂のうたう   

木内昇『漂砂のうたう』を読む。

ちょうど一年前の直木賞受賞作です。
実は読み終わるまでそのことは全く知りませんでした。
『浮世女房洒落日記』がとても面白かったので手に取った次第。
スゴい小説です、これ。

江戸の世が終わってすぐ、まだまだ世の中が混乱していた頃の江戸東京(江戸が終わって以降、今日まで「混乱していない頃」が東京に一瞬でもあったかどうかはさておき)は根津遊郭が舞台です。
元武士で、今は遊郭の下っ端使用人に身をやつした定九郎が主人公です。

激動する時の流れに乗れず、さりとて発奮したり開き直る気概もなく、諦観と閉塞感いっぱいのまま、苛立ち、自堕落にその日暮らしを続ける定九郎。
彼が不幸なのは、表面上は諦観を決め込みながら、気持ちは少しも凪いでいないということ。
それが、卑屈さを助長させたり、ちょっとしたきっかけで残酷になったり粗暴になったり、這い上がろうとする人間に好悪入り乱れる感情を持ったり、刹那的に悪事に加担したり、という彼の言動、行動の背景であることは明らかです。

そんなヒリヒリするような主人公の郭での日々が、やけにリアルに描かれた主な登場人物達とコミで、読み手にぐいぐい迫ってきます。
ホントに「迫ってくる」感じです。
神出鬼没で主人公の前に立ち現れる落語家の弟子ポン太、郭の先輩番頭龍造、後輩の嘉吉、筆頭花魁(?)小野菊、遣手、落ちぶれた女郎芳里、仕事の使いで行く賭場で知り合った賭場の用心棒である長州出身の山公・・誰ひとり、こっちに迫ってこない人物はいません。
読みながら、「もうちょっとこっちと距離を置いてくれ」と思ったほどです。
特に小野菊と龍造。
両者とも主人公と対照的な佇まいですが、対照的に映ることと内面の違いは必ずしも連動しない・・というあたりまえのことに終盤、あらためて思い至ったりしました。

すごいなあ、木内昇さん。
ちなみに女性です。
1967年生まれだそうな。
この人の書くものはこれからも追いかけていきたい、と思いました。
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by kuni19530806 | 2012-01-19 23:31 | 読書 | Trackback | Comments(0)

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