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小暮写眞館   

午前中なんだか体調がぱっとしなくて、外出の予定を取りやめた。
昼前には復調して取りやめたことを後悔するほどだったのだけれど、おかげさまで(?)後半を一気に読めましたよ、宮部みゆきの『小暮写眞館』。

宮部小説を読むのは久しぶりです。
20世紀まではやたらシンパシーを感じていて、刊行をチェックして前のめりで読んでいましたが、21世紀になるとそこまでは執着しなくなり、世間のほとぼりが冷めてきた頃に読むというつき合い方になりました。
この本も刊行は昨年です。
でもいまだに図書館の予約の列は長いです。
国民的作家だもんなあ、宮部センセ。

相変わらず、巧過ぎです。
この過剰なほどの巧さが、ちょっと宮部センセから自分が距離を置くようになった大きな理由だった、と思い出しました。
巧過ぎて文句言われちゃ本人はたまらんでしょうが、彼女の場合、巧さと滲み出る善良さが、国民的作家になったゆえんであり、同時に、ごく一部の層が距離を置く理由でもあるのでしょう。
それでも、善良さがイヤミにはならない本当に稀有な人だとは思うんですけどね。

相変わらずなのは、巧さだけじゃなく、登場するほとんどの10代が宮部みゆき的大人の思う理想の10代だというところです。
ずうずうしいですが、この「宮部みゆき的大人」には私も交ぜてもらいます。
理想ですよ、この主人公。
でもこんな10代達、そうそういません。
理想であると同時に、うっとうしいヤツらでもある。
居て欲しいと思うことと、実際に近くに居たらどう思うかは、またちょっとだけ別で・・・。
自分を鑑みるせいか、10代の「わかっている」感に懐疑的だったりもするもので。
でも、それらを丸ごと踏まえて、この素材(?)で2010年に小説を発表するというのは宮部みゆきという作家のチャレンジだったんだろうなあと思い至りました。

だってね、今までさんざん言われてきたんだと思うんだよね。
「宮部みゆきの書く小説に出てくる人間は善良過ぎる。特に10代の男の子は大人から見て理想的過ぎる」って。
私は勝手に、『模倣犯』はそれに対する彼女のひとつの回答というか、抵抗だったのではないかと思っています。
私はこんな人間も書けるんだよ、という。
あの胸くそ悪い登場人物は、あたかもそれまで性善説を唱えていた著者が性悪説の存在を認めた、みたいな印象でした。
もちろん、『模倣犯』以前も、宮部センセの小説には悪役はいた。
いたけれど、あのインパクトは圧倒的だったので。

圧倒的な悪役を提示することで、いわゆる市井の、彼女がデビュー当時から一貫して描いてきた名もない、括りは不適切かもしれないけれど、社会的弱者というかブルーカラー周辺の人々の、それこそ善良さ、そして悲哀が際立った、というのは、もちろん宮部センセの狙いだったのでしょうが、「であっても」なのか、「だからこそ」なのか、私には宮部小説の魅力がちょっと薄れた気がしました。
善良過ぎると文句を言われ、人物造詣の裾野を拡げれば魅力が薄れたと言われ、作家も大変だ(笑)。
でもね、なんか「頭で書いた小説」って感じがむしろ強くなったんだよねー私には。
気持ちじゃなくて頭。
上手く言えないんですけど。

その後の小説(とりあえず時代小説は置いといて)も読んできて、「他の作家と比較すれば面白いのは明らかなんだけどなんだか物足りない」と思ってきました。
もしかしたら「宮部みゆきレベル」に馴れ過ぎて、通常のそれじゃ物足りなくなった、というのもあるのかもしれません。
なので、今回も、ふつうの宮部みゆきレベルなのか否か、とおそるおそるページを開いたフシはあります。

そうでもあり、そうでもなかった。
ただ、「私は自分の王道を書く」という強い決意が感じられた。
それが、この厚さであり、書き下ろし連作短編というスタイルであり、花菱英一君という主人公であり、心霊写真というモチーフなんだと思いました。

今までの小説も決してやっつけ感はなかったけれど、この『小暮写眞館』は際立って丁寧に描かれた印象が終始あります。
それは、登場人物ひとりひとりに心を寄せ、たとえ予定調和に映っても流れを寸断させず、人間の行動心理をあいまいさも含めて逃げずに書く、みたいな意味での丁寧さ。
それはものすごいことだと思います。

だから、巧過ぎ!理想の男の子!と思うのと並列に、あっぱれ!です。

蛇足。
私は数年前、職場の広報紙に「キャッチャー・イン・ザ・ライブラリー」という短編小説を書きましたが、読んでくれた方に向かって書きますけど、これって宮部センセのばったもんぽいって思わなかった?
当時、自分では宮部センセを意識してなかったと思うんだけど、『小暮写眞館』を読んだら、なんだか自分でそう思ったのです。
ばったもんとはいえ、ずうずうしい見解っすかね。

小暮写眞館_a0099446_11223561.jpg

by kuni19530806 | 2011-10-29 23:50 | 読書

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